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制作へのヒント 松山における先日の宿泊研修会の際に、荒尾理事長からお話し頂きました「油彩画材料等の技法から色の冴えを保つ法」について掲載します。 これは理事長自ら文章化され、送っていただいたものです。油彩画制作に活かしてもらえれば、と思います。 また、荒尾理事長は「油彩画制作の実際」(油彩画の潤いと精彩を保つための技法)という冊子(A4版40頁・有料)を著しています。冊子に関しましては直接、理事長(〒272-0821 市川市下貝塚3-21-15/荒尾尚樹 tel.047−371−4932) 宛に問い合わせて下さい。 (小浜) |
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鮮やかな色を保つ工夫 |
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| 色彩について | ||
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油彩画および水彩画で彩色した絵具の色が、くすんだり鈍(にぶ)ったりして精彩を欠く絵になりませんか。油彩画や水彩画は、その字の通り「彩」という字が当てられていますが、これは鮮やかとか輝きという意味ですから、絵具にもとから備わっている彩度(鮮やかさの程度)や明度(明るさの度合い)を損なわないようにしなければなりません。 工場から出荷された際のチューブの絵具は、鈍色(にびいろ)とか清色と呼ばれる濁りのない状態で、色価(色に備わっている明るさや鮮やかさの度合い)は、その色特有の高い度数に設定されています。絵を描くときには、この色価を考えて、濁らない純度の高い状態で制作することが必要です。 チューブから出した絵具を、そのまま使用すれば純色を保つことはできますが、しかし、色を混ぜ合わせて好みの色を作るという願いがありますから、その際には色価をできるだけ高く保つための工夫が必要です。 |
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| 鮮やかな色はどうすれば保てるか |
(1)絵具の色素は顔料と染料です 顔料は、主として鉱物や岩石などが原料で、その微粉末を練り固めてありますから、鉱物の元素が混ざり合うと、化学変化を生じて性質が変わります。これが黒ずみの原因です。 染料は、草汁などの水に溶ける液体状の色素です。したがって、この液体状の色素を固めるためには、ボディといわれる体質顔料に染め付けて固体状にしてチューブに詰めてあります。 チューブの絵具は、これらの顔料や染料の色素を油で包み(主としてポピーオイルです)、さらに乾燥剤や防腐剤、防黴剤、ワックスなどの助剤が加えられて練り上げられています。 絵具が固まるわけは、絵具が練られている油が空気中の酸素と化合して、油膜を形成して固まります。 (2)混色する際の注意 色と色を混ぜようとする場合の注意は、極力、色数を少なくすることです。多くの色を混ぜれば混ぜるほど濁って、ヘドロのような鉛色になります。明度も彩度も低下します。 絵具は、その成分が太陽光線や電灯光線によって退色したり、空気中の不純物や湿気で変質したり、あるいは時間の経過にともなってひび割れや落剥したりします。タバコのヤニでも変色します。 チューブには混色制限と表示されています。これは、混色で化学変化をを生じる絵具の注意書きです。硫黄や鉛、鉄などを成分にした絵具は、他の化学変化を生じやすい絵具と混ぜる際には注意が要ります。 (3)メジウムを加えて透明性を高める 日曜画家が絵を描いている様子を見ますと、パレットに出した絵具にポピーオイルだけを、あるいはペトロールだけで絵具を溶いて描いている例を多く見かけます。 色の鮮やかさを保つには、絵具はポピーやリンシードオイル(ルソルバンやペインティングオイル)で溶くだけではなくて、メジウムを加えて練った絵具で描かなければなりません。 メジウムには、たくさんの種類があり、多様な役割があります。特に大きな効用は、絵具のコシを調整して色の艶と冴えをもたらす効果があります。艶消しメジウムなどもありますが、通常は透明メジウムを用います。 メジウムを絵具に混ぜて使用すると、メジウムの成分が絵具を包み込んで油膜をつくります。産卵魚の卵の中に見える状態に似ています。このように調合した絵具で彩色することによって、形成された油膜面を光が通過する際に、絵具の色が鮮やかに見えるわけです。 南洋の海を想像すると、海の底まで透明に見えますが、メジウムはあたかもこのような厚みと深みのある透明な色を創り出す働きを持っています。 透明性を保つ技法は、グレーズ技法・透明描法といいます。メーカーによってメジウムの性質や状態は違いますが、使いやすくて推奨できるチューブ入りのメジウムは、ホルベイン製の「ペインティングメディウムゼリー」です。 (4)グレーズ技法(透明描法) 色が濁るのを防ぐ描き方には、点描技法とグレーズ技法があります。グレーズ技法の場合に用いる筆は、軟毛筆です。硬いブタ毛は筋跡が残るので適しません。 穂先の柔らかいコリンスキーやイタチ、あるいはテン、リス、アナグマ、狸、ムジナなどの軟毛筆は、筆跡を残さないで平滑な面を造ることができます。ことに、裸婦の制作で、肌理(きめ)の細かい皮膚を表現するには、この柔らかい筆が必須です。 絵具にメジウムを混ぜて、ペインティングナイフでよく練ります。その絵具を掬(すく)って刃先や筆先からトロリ、ドロリと落ちるぐらいの練りが適しています。ゆっくりと平らに塗って、アイススケートのリンクのような、ガラス状の面を造るようにします。 絵具を混ぜるときには、メジウムだけではなくて、ペインティングオイルとかルソルバンを数滴、垂らして柔らかくします。また製作段階によっては、パンドルのように粘りの強い溶油に変えていく必要があります。 (5)初期段階の溶油 溶油は、絵具の硬さ(コシの状態)を調整する際に使用する油です。彩色する筆運びがスムーズにできるか、引っかかって延びないかといったことは、この溶油によるコシの具合にかかっています。 溶油を使わないで、チューブの絵具のままで描いていると、カサカサの画面になって、きめ細かな画面にはなりません。ガラスビンをカサカサで描くようなものです。細い線を長く引くことができません。 溶油の典型的な油は、ケシ油原料のポピーオイルとアマニ油のリンシードオイルが主たるものです。この両者の特性を生かしたオイルとして、ケシ油は「ルソルバン」に加工され、アマニ油は「ペインティングオイル」にグレードアップして市販されています。 ルソルバンは、ペインティングオイルに比べて透明度が高いオイルです。ですから、ホワイトを溶く際には白色の純度を保つことができますが、その皮膜はペインティングオイルに比べて薄く柔らかです。ペインティングオイルは、やや黄色みを帯びています。乾燥した彩色面は硬い堅牢な面になります。これらの油は、空気に触れて酸化して固まり油膜面を形成します。 絵具を溶いてコシを柔らかくするオイルは、他に石油系のペトロールやテレピン油などがあります。テレピン油は揮発系の油です。ペトロールだけで溶いた絵具で描いていると、カサカサの画肌になり、キャンバスへの密着も弱く、落剥したりひび割れが生じたりします。画面の構造がもろくなります。 (6)グレーズ技法の色面 透明皮膜は、レイヤーとかヒラメントと言われます。パソコンの画像加工に使われる語句のレイヤーと同じ意味です。パソコンでは、下になる色面を「背景色」、その上に重ねられた色面を「描画色」と言っています。初めに塗った色が、後から塗った色の下に透けて見える状態の色面をレイヤーといいます。 グレーズ技法も、これと同じ原理です。グレーズ技法には、グレーズに適した透明性の高い絵具があります。染料が原料のレーキ類やマダー類などの絵具は透明色です。溶油もレイヤーを作るのに適したオイルがあります。 一方、白色は不透明で、下の色を見えなくする力があります。これを隠蔽力といいます。修正液と同じです。白色の中でも隠蔽力の強い絵具はチタニウムホワイトです。このように絵具に白色を混ぜて用いると、混ぜた色は不透明になって下の色が見えなくなるので、グレーズ技法には適しません。 しかし白色の下地は、その上に彩色された透明性を際立たせます。色が見えるのは、下地に当たって跳ね返った色が見えるのですが、白い下地であれば鮮やかに見えます。そのことからも、ファンデーションホワイトの地塗りの重要さがわかると思います。 (7)制作密度を高める加筆油 グレーズ技法は、オイルの乾燥皮膜を形成して、その皮膜を透過した光で色が目に映る制作原理です。このため、乾燥彩色の色面をどのように造るかということから、製作段階でどの溶油を使うか、というオイルの選択が鍵になります。 彩色面のレイヤーをしっかり造るには、色を重ねる場合に、先ず下の画面と重ねる絵具が密着していなければなりません。そのために、乾いた画面に加筆する場合は、必ず「ルツーセ」を塗って、指先がピチッとくっつき始めたら絵具を塗り始めます。制作の初期は(5)で述べたオイルで絵具を練って溶きます。 次第にレイヤーの色面が厚く重なってきたら、先ず堅牢で、そして平滑で、さらに明るい色になっていることが必要です。その状態で、初めて さまざまな表現が可能になります。面相筆による線描、セーブル筆による人体の皮膚表現、クリスタルの材質感表現などが可能になります。 制作が進んで、色面の形成層が積み重なってくるにつれて、仕上げに適した溶油は、グレーズワニスやペインティングオイルスペシャルなどの、粘度の強いオイルをテレピン油で調合し、筆さばきがうまくいくようにします。 (8)コクを造る グレーズ技法では、塗った個所の描画色の下絵が、透けて見えるような塗り方で色を重ねます。ペインティングメジウムゼリーは速乾性ですから、朝描いた画面は夕方には加筆できます。 乾いた画面にはルツーセを塗ります。次に、重ねる絵具の溶油を選択して、それにメジウムを加えて、ペインティングナイフで練った絵具を延ばしていくと、下の色が最上層の絵具の下から透けて見えます。それぞれの色が透けて見えるので、レイヤーを透過した各層の色が、微妙に融合調和して特有の深みのある色味が生まれます。 ウイスキーの琥珀色やマリンブルーの深海色のような、魅惑的な色合いが生まれてきます。このような深みのある色調を「コクがある」と言います。「コク」は、幽玄さ、優しさ、優雅さ、上品さ、妖しさ、幻想的、恍惚感などの魅惑に包まれた雰囲気を醸(かも)し出します。 |
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(9)チューブの絵具 絵具のラベルには、その絵具の成分や耐光性、堅牢性、透明性あるいは乾燥日数、混色制限が表示されています。 右の絵具は、クサカベのコバルトブルーです。ラベルの一番上には、PB36。コバルトクロム青と記載されています。 下の赤いラベルの×印マークは、有毒性の警告表示です。溶解性コバルトで口や目に入れると有害の恐れがある、と記されています。いわゆる毒性や劇物の表示で、取り扱い注意の表示です。コバルトやカドミウム、あるいは硫化水素や鉛化合物などもそうです。 このほかの表示に透明、不透明色の表示があります。絵具によっては、透明性の高いものがあります。オリエンタルブルー、サップグリーン、インデアンイエロー、クリムソンレーキ、ローズマダー、イタリアンピンク、アリザリンレーキなどがそうです。 これらは、(1)に述べた染料の仲間ですから、溶解性の成分ですし、もともと水に溶ける性質を持っていますから、透明物質だと考えられます。このことから、透明描法に適する絵具は、レーキ類やマダー系の絵具が適しているといえます。 チューブに「透明性:透明色・不透明」と表示されているうちの、透明色とあるものを使用すれば、透明描法の理屈にかなうわけです。 |
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(10)水彩絵具 水彩絵具の原料も油絵具と同じですが、水に溶けるという目的で、アラビアガム(ゴム)などに色素が染め付けてあります。水彩絵具用のメジウムも市販されています。ウォーターカラーメジウムは一般的です。 絵具を水で溶いて彩色した上に、コクを出そうとすればメジウムを使うことになります。この場合は、ジェッソホワイトを下塗りして紙のコシを強化してから、厚塗りや透明描法、あるいは水で洗うといった、さまざまな方法でコクを造ります。 木工ボンドや文房具のフエキ糊なども、メジウムとして利用できます。 (おわり) |
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